選ばれし人

介護

「今度の通院は、誰が行くんだべ?」

と。

私に聞く入居者様。

「んっ?」

私は、聞き返した。

来月も通院がある。

来月。

がんの大きさによっては手術するか?しないか?

が、

決まる。

でもね、この会話。

入居者様が、ぷかり、ぷかり。

タバコをふかしている時に話をした。

がんなのに。

と思うかもしれないけどね。

基本、やりたいことは何でもOK。

だって…

ホスピスだから。

明日は、分からない。

一寸先は…分からないのだ。

「どうしたの?」

と、

聞き返した。

「いやぁ、なあ…人によっては気を遣うのよ。」

と。

「マイマイだと、気を使わなくていいのよ。」

と、いう。

どういう意味だ?

私は、「寄り添う」ことを大事にする。

この通院の送迎の時。

うちの施設は、お買い物OK。

だから、

お迎え帰りのお買い物を、楽しみにしている入居者様様。

私なぁ。

その日ね、休みなのよ。

予定はないから、上司に確認するね。

ご指名。

頂きました。

そうねえ。

私が目指しているのは、上からでも下からでもない。

横並び。

同じ目線。

友達でも、家族でもないけど。

信頼できる、親しい人。

そんな関係。

これは、私が勝手に思っていることなんだけどね。

この人の息子や別れた奥さんに逢えたらなあ。

って思ってる。

滅多に話さないけど、会いたい気持ちは伝わってくる。

思い出の中に登場してね。

言葉が詰まる時があるんだ。

車を変えたのは、息子のため。

まあね。

夫婦はいろいろあるから。

余計なお節介なのはわかってるんだけど。

亡くなる前に、一度は会いたいだろうなって思ってる。

何かいい方法はないものか?

考えてるんだよね。

今までも、自分が知り得た情報は、家族に入居者に伝えてきてる。

それが私の使命だから。

その一言で、大嫌いだったお父さんが大好きに変わる。

大切なことだと思う。

つい先日も、その橋渡しができた。

息子は、昔グレていて。

家族に、特に父親にめんどうをかけていた。

息子は、きっとその罪滅ぼしだったのだろう。

施設によく来ていた。

会話は、ほとんどない。

ある時、息子が帰った後に私が入居者様に声をかけた。

「まめによく来てくださり、いい息子さんですね。」

と。

そうしたらね。

「あいつには、苦労かけられて大変だったんだよ。」

という。

そうかそうか。

と、相づち打ちながら聞いていた。

でもね、最後に。

「あいつは、あいつなりに苦労したんだよなぁ。」

って。

本音が聞けた。

それから、入居者様はあっと言う間に体調を崩されて。

亡くなってしまった。

私は、最後に。

入居者様の言葉を家族みんなの前で伝えた。

そうしたら、お姉さんが

「わかってくれてたじゃない!」

って。

息子の肩をたたいていた。

部屋の中の空気が、ぱっと明るくなった。

良かったと思った。

深いことは、聞かなかったが家族がわかってればそれでいい。

自分の役目を果たせた瞬間だった。

そして、ごめんね。

風邪ひいて、病院の送迎。

楽しみにしていた買い物。

一緒に行けなかった。

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