ひらがいのたまご

介護

少しだけ前の話。

その方は、男性で50代だったと思う。

いつ部屋に入っても薄暗くて、どよんとした重たい空気。

昼夜関係ない。

いつも暗い部屋。

そして、

ものすごいマイナス思考に持っていかれそうになる感覚。

その方が来所されて、初めての夜。

私は、派遣社員の男の子と夜勤。

その男の子は身体が縦にも横にも大きな人。

のっそり、のっそり歩くけど仕事をお願いする前に、
「やっておきました。」と、静かに話す。

頼りになる人。

私の後ろ姿は、小学4年生くらい。

振り向いたら、年相応の女性。

(自分のことは、おばちゃんと言いたくない。)

いわゆる、ちび。

思い出しました!

A様。

入居者様は、A様。

子供が4人いる方で離婚されている。

離婚原因は、奥様へのDV。

奥様がそうにおしゃっていた。

この方の部屋へ巡視に行った時のこと。

ノックをして、声をかけて、部屋に入るとね、なぜか床に寝ている。

毛布一枚で。

5月頃のことだから、日中は寒くはないが、夜は冷える。

私は、ベッドから転落したのだと思い、(やば…外傷確認!!)と

「大丈夫ですか?」と声をかける。

返事がないので、さらに声は大きくなる。

「うるせーなー!寝てんだよ!」と。

「寒いから、ベッドで寝ましょう。」と促すが、

「床がいい。」と、言われる。

薄暗い部屋なので、よく見えないけど、冷たい目をしていた。

夢も希望も何にもない…光のない目。

奈落の底を想像させる目。

倉庫からマットを持って来て、床に敷いて寝床を作った。

畳で生活していたから、ベッドは嫌だとのこと。

私の施設は、入居者様のお願いはできるだけ聞いてあげて。寄り添いましょう。だ。

私は、床に敷いた布団に寝転ぶA様の話を聞いていた。

言葉の端々に「さみしい、さみしい。」という言葉を繰り返される。

「家族がいないからさみしい。」

「一人だからさみしい。」

「知らないところで一人で寝るのはさみしい。」

私は、うん、うん。と聞きながら疲れてしまったので、A様の足元にしゃがみこんでいた。

最初はね、布団敷いたら退室するつもりだったのだけど、話が終わらなそうだし、来たばかりだしと、しばらく傾聴することにした。

しゃがみ込だ私の右足の甲に、A様の足が触れた。

(えっ?今、私の足の上に乗っかってるよね?…)

ぞわぞわと、鳥肌が立ち「うん、うん、そうだね。」と言いながら、スッと立ち上がった私。

A様、寝返りを打ってわざと足の上に足をのせてきた!

私に見えているのは、廊下に出るドアだけ!

そーっと、距離を取りながらドアに近づく。

決して、足音は立てない。

その間も、相槌は打つけど…もう、聞いてない。

ドアをそっと開けると、廊下の光が差し込んで、
「どこに行くんだ!まだ、話は終わってないだろう!」とA様。

「そうだね。」と言いながらも、廊下に顔を出してキョロキョロ。

派遣の男の子が歩いてきた。

グッドタイミング。

「Aさん。私、見回り行くから、代わってもらうね。」と言って、

派遣の男の子と対応を代わってもらう。

彼も、ただならぬ気配を感じたよう。

Aさんの気持ち悪い行為。

私は、そそっかしいから勘違いかなぁと思っていたんだけどね。

自分の娘くらいの職員もいるから、注意喚起をしたの。

A様。

そういう側面もある人だということが、だんだんわかってきた。

とある職員には、もっとえげつないことを言ったそう。

私が驚いたのは、女性職員がそれを自慢話にしていたこと。

まだ、30代なのに…。

この人、モテない人なんだなーと思った。

というか、私とは感覚が違うんだろうね。

私は、自慢でも悪口でもなく…事実として見ていた。

「さみしい。」

この言葉に、全ての答えがあるように思った。

そして、食事に関して段々おかしな発言が増えてきた。

ある時、「ひらがいのたまご」が食べたいという。

私は、ひらがいを知らない。

「ひらがい、ってなんですか?」とAさんに尋ねると、
「ばかと会話しても、しょーがねーなー。」と、鼻で笑われた。

とはいえ、わからないまま、上司に報告する。

怪訝そうな顔をするも「わかりました。」と。

やっぱり、ひらがいはわからない。

でね、Aさん。

生卵をね、飲むの。

私の知る限り、それをするのはロッキーかヘビだ。

生卵は、ご飯にかけてTKGでたべるものだと思ってる。

あるいは、月見うどんとか。

(Aさん、変わってる…)

しかも、言われたものをお膳に乗せて居室へ運ぶと、

「気が変わったから、やっぱり魚が食べたい。」と言い出す。

やれやれと思うも、後で違うといわれないように、よく聞いてから退室。

煮魚か焼き魚か、等々。

キッチンの方に謝りながら、魚を用意してもらうが、居室へ持っていくと

「やっぱり、たまご。」と。

振り回されて、ちょっとグッタリな私。

大抵の職員は、プンスカ怒ってAさんに吠えると思いきや、

Aさん。

一枚上手。

そんなことをしようものなら、施設長を呼べ!と脅かされる。

なので、誰も吠えない。

職員の元気は段々なくなっていく。

吸い取られているみたいに。

そして、私は「ひらがい」が何なのかをやっと知りました!

スーパーの卵売り場で。

「平飼いのたまご」と書いてあり、農場を元気よく走り回るニワトリの姿。

これかーと、腑に落ちてニッコリ。

卵は、養鶏場の自動販売機で買うのが当たり前だった私。

まだまだ、知らないことはありそう。

Aさん、教えてくれてありがとう。

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