あれは失敗したと思う

不思議

その時、大きな笑い声がおこった…。

ヤバっ!

とても、嫌な予感がした。

私が、納棺師になって独り立ちした頃のこと。

いつものように連絡をもらい、納棺先のお宅へ向かう。

だいたい、午後の3時からが多かったような気がする。

たまに、午前と午後と。

2件連続のこともあった。

この日は1件だけだった。

納棺先のご自宅に着くと、そこは大きな茅葺屋根の家。

今時珍しい。

私の生まれた家の隣は、土間のある家だったけど、

この家にも土間があった。

納棺師。

予定の30分前には遅くも行く。

準備があるからだ。

私は、それより早め。

そもそも、事前情報が薄い時もある。

そうすると、30分の準備じゃ終わらない。

だけど、

納棺の後は通夜。

それに遅れるわけには絶対に行かない。

時間との勝負もあるから。

毎回、ドキドキしながらご自宅へ向かう。

お亡くなりになった方が、怖いとかそういうのはない。

生きている人間のほうがよっぽど怖い。

色んな人がいるから。

私は、亡くなった方と、残された方の橋渡しが仕事。

なので、亡くなった方の思いをどの人に届けるか?

そもそも、誰にどんな思いを伝えたいの?

どうしたい?

その声を聞きながら。

思いを繋げていく。

この日も早めに納棺先のお家へ行った。

古いというか歴史を感じる家だけのことはある。

はりもしっかりしているし、大黒柱もある。

確か囲炉裏もあった。

でね。

靴を脱いで上がるとね。

ミシッ。

ミシッ。

っと。

畳がフカフカ。

歩くところを選びながら歩いた。

ちなみに、畳の目を踏まないようにして。

時計回りに歩く。

魔法のようにお着替えをして、

顔にかかった布の下から顔を整える。

布を取ったら出来上がり。

みたいな感じ。

あの日もそんな感じで準備が整い、ご挨拶をして始めた。

タダ。

いつもと違うのは人数。

めっちゃいる。

部屋に入りきらない。

お亡くなりになったのはおじいちゃん。

どうやら、ひ孫もいる。

挨拶して、口上を述べて一同がしんとなる。

皆の心がひとつになった瞬間だ。

ミシッ。

っと大きな音。

次に、ガタッ。

「おおー」っとどよめきが流れた。

どうやら、床が抜けた。

古い家なのに、入りきらないくらい人がいるんだものん。

どよめきが、笑い声に変わった…。

そのうち、

「そこ、床抜けちゃったから早く終わりにしよう」

と言い出す親族。

ちゃんと順番があるから。

端折るわけには行かない。

親族は、早く終わりにしたくてとっととやってる。

そして、出棺。

お見送り。

「そんなことより、早く車に乗せて。また床が抜けたら困るから。」

と。

霊柩車に乗せて、大丈夫かなぁと思いながら、

お見送りをしていた。

その時。

家の中から視線を感じる。

振り向くと、

白装束のじいちゃんが腰に手を当てて立っていた。

「えっ?」

じいちゃん。

置いて行かれてるよ。

やっぱり、納棺失敗したらしい。

笑いが起こって、心が離れてしまったからなのか?

でも。

白いの着てたから。

亡くなったことは、わかっているみたい。

自分の乗っている霊柩車を見送るって、どんな気持ちなんだろう。

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