美しき師弟関係(1)

介護

介護の仕事の中に、通院の付き添いというものがある。

そう。

入居者様を病院へ連れていく。

大抵は、ナースがしてくれるんだけどね。

私も時々する。

車の運転は決して得意ではない。

だから、正直。

人を乗せるのは怖い。

息子でもそう。

自分以外はね。

命の責任を感じながら運転している。

これは、私が入居者様を病院へお連れした時のこと。

車の中だから、二人っきりなんだよね。

だから、普段は話せないようなことを話す。

この時もそうだった。

Tさんね、ガンを患っているんだけど…

本当なら去年亡くなってたんだって。

それでね。

会社の寮に入っていたから、荷物。

全部捨てられたって。

正確には、ちょっと違うんだけどね。

どうせ、亡くなってしまうのだからいらないだろうって。

でもね。

生きてる。

その人が、教えてくれたの。

「だから、何にも持ってないんだ」って。

会社の健康診断の結果を聞きに行って、即入院になったって。

そうなんだね。

と。

話を聞いていた。

仕事を聞けば、建築関係だったって。

Tさんのね、施設の部屋。

充実してるよ!

テレビ。

冷蔵庫。

電子レンジ。

洋服だって沢山ある。

たんすも持ち込みである。

これね。

仕事の師匠がくれたそう。

80代のじいちゃんだって。

Tさん、まだ若い。

60代。

Tさんが会社に入った時、師匠はめちゃくちゃ怖くて口も聞けなかったそう。

すぐ怒る。

私がTさんに、聞いたの。

「職人さんは、見て覚えろの世界だよね。だから、Tさんもそうだったの?」

「そんなことないよ。要所要所は教えてくれた。」

と。

懐かしそうに話を始めた。

「あの年代の人はすごいよ。俺なんかよりずっと力がある。」

「ブロックだって、どんどん運ぶし。ユンボも乗る」

(ユンボ?なんだろう。)

(やんぼー、マンボーは…知ってるけど。)

と、私の頭の中ではどうでいいことを考えていた。

でも。

「戦争を経験して、日本の復興に力を注いで来た人たちだよね。」

「言葉じゃ言い表せない思いをしている。」

そうに、私が言うとね。

Tさん「俺の部屋の冷蔵庫あるだろう。あれな、師匠が送ってくれたんだよ。」

Tさん「俺、死ぬからってわかった時。全部処分されちまったからな。」

私「そうかぁ…。辛かったね。」

私「その時、一回全部あきらめたでしょ?」

Tさん「んだ。」

私「それって、全部手放したんだよ。病気もね。」

私「だから、奇跡が起こったの。」

その時、私は本当にそうに思った。

人は、手放した時に心にスペースができる。

そこに、入り込んでくれるのが神様。

無。

空っぽの空間。

私は、自分のどこかで思っていることがある。

無=神様。

真っ白で何もない空間のこと。

人は、手放しても何にも残らないわけじゃない。

ちゃんと残るものはある。

思い出。

辛いこと苦しいことではなくて…楽しかったこと。

キラキラした思い出だけが残る。

それは、辛いことがあればあるほど、キラキラと輝く。

深みが増すから。

不思議だよね。

師匠は、物が無い辛さを体で知っている人。

だから、Tさんの気持ちが痛いほどわかったのだろう。

Tさん。

すごく優しい。

Tさんの部屋は、人の思いがあふれている。

「俺な。師匠に感謝してるんだよ。」と。

私は、「良かったね。」

その、一言だけ伝えました。

私は、とてもステキなお話をきかせてもらえるから。

通院の送迎は、好きです。

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