桃の花の香り(にせもの)

エステティシャン

桃源郷。

人が亡くなって、あの世に行くと桃の香りの世界が広がっている…らしい。

行ったことがまだ無いから。

本当のところ、わからない。

それでも。

私は、納棺師の前は、エステティシャンをしていた。

その時のこと。

エステサロンの社長に連れられて、とある新興宗教の集まりに行った時のことだ。

場所は、もうすっかり忘れてしまったが、普通の家だったのは覚えている。

玄関に入った途端…甘い、桃の香りに包まれた。

何ともウットリする香。

私の頭の中には、桃源郷が広がっていた。

そして、頭が痛くなった。

私は、偏頭痛持ちではなかった。

見逃してはいけない、違和感のサイン。

で、中に通される。

畳の部屋には座布団が沢山敷き詰められていた。

到着順に座るらしい。

私は、自分の子供達も連れて行った。

仏教ではなく、神道なんだと思う。

巫女さんのような格好をした女性。

神主のような格好の男性。

その人が、教祖なのかな?

よくわからない、儀式が始まった。

巫女さん二人は、酔っ払いのように目がおかしな方向に向いている。

くねくねしていた。

トランス状態というやつなのかもしれない。

そして、教祖が何か唱えているんだけど…

私にハッキリ見えたのは、並んでいる人の身体を貫通して鎖のようなものでみんなをつなげている。

もちろん、触れない。

私には、見えた。

気持ち悪い。

誰も気がつかないようだった。

もうね、帰りたくてしょうがない。

出口、どこだっけ?

そんなことしか頭にない…

そもそも、なんでこんなところにいるのか?

社長が、毎月一度は相談に来ていたらしい。

私は、そこのエステサロンには勤め始めたばかりだった。

社長夫婦は「一度、連れていきたい。」と言っていた。

なので、私も。

子供たちは?

上の子が相談したいことがあると言ったから。

下の子は、まだ一人でお留守番はできなかった。

そして、

よくわからない儀式が終わり、相談タイム。

みんな仲良く、並んで順番に相談。

社長は、売上の相談。

上の子の番が来た。

教祖の前にちょこんと座り「寝ていると、雨の音がする。」と神妙な顔。

家の方角を聞かれ、何やら図を書いている。

で、

「霊道だね。少しだけ、かかっているから聞こえたんだよ。心配ない。」と。

そして、

「かわいい子だね。また、相談にいらっしゃい。」とニコニコしていた。

教祖は、私と下の子には目もくれない。

興味がないといった感じ。

私の中でも「無」。

多分、悪意とか出したら自分の雰囲気が変わる。

だから、何も考えないようにしていた。

あの、見えない鎖見ちゃってから…気持ち悪くて。

上の子、まだ、9歳。

(子供を褒められても、ちっともうれしくなかった。)

私の住んでいるところは、確かに霊道。

知っていた。

ドンピシャにかぶるのは、となりの家。

なので、お隣さんの入れ替えは激しかった。

そして、帰り際。

玄関先まで、教祖が社長を見送りにきた。

私は「桃の甘い香りがしますね。」と言った。

教祖は、びっくりした顔をしていた。

「きみは、わかるのかい?」と。

他にも、何人か玄関にいたのだが香りはわからないようだった。

私の子供たちも。

社長も。

そして、外に出たら新鮮な空気が待っていた。

あの香。

本当に桃だったのか?

ちょっと怪しい。

しかし、なんで見えない鎖でつなぐのか?

あれが、マインドコントロール?

その後。

そこには、二度と行っていない。

そこのサロンでは、2か月分。

お給料をもらえなかった。

社長が、お金を使い込み潰れてしまったから。

もちろん、もらいに行きました。

でも、もらえなかった。

色々あったのですが、そのことはまた今度。

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